ニワノトリ

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分かった振りはしない。/大森靖子「青い部屋」@『絶対少女』の感想

大森靖子『絶対少女』の感想を一曲ずつ書いて行っています。 → 絶対少女 - ニワノトリ

 

 

今回は『絶対少女』の12曲目「青い部屋」の感想を書こうと思います。





「青 い部屋」という曲を何度も聞くうちに、「青い部屋」というタイトルの絵と、それを描く大森靖子の後ろ姿が思い浮かぶようになった。大森靖子が一心不乱に キャンバスに色をのせている。一筆一筆に力が籠っていて、絵の題材への思い入れを感じさせる。聞き手は、そんな後ろ姿をじっと眺めている。

「後ろ姿」を感じさせることが重要なのだと思う。
青い部屋」という曲が描いているのは「現実」や「真実」ではない。そこにあるのは「大森靖子という人にとっての」現実や真実だ。
大森靖子にとっての」という前提もひっくるめて、「青い部屋」という曲は出来上がっている。

大森靖子自身による解説 http://oomoriseiko.info/zettaisyoujo/music_12.html によれば、この曲は「子供」をめぐるある事件とある作家をモチーフにしている。
寡聞にして私は作家の方は知らなかったのだけれど、ある事件の方はとても有名で私も知っていたから、解説を読む前から私はこの曲を聞きながらその事件を連想していた。
それは不思議な連想だった。ただ連想させられるだけで、私の中のその事件像が変わったり、何かのメッセージ性を感じ取ったりすることもなかった。
私はただ、そんな事件もあったな、と思い出し、その事件を忘れていた自分のことを思い出した。

それはとても「悲惨な」事件だ。
しかし、「青い部屋」という曲にその事件に巻き込まれた「子供」たちへの同情は感じられない。

例えば、子供が虐待されたニュースを見て、泣く倫理もあれば泣かない倫理もあると思う。
なんて酷いことをするのかと、他人事のように思うことなんてできなくて、泣く倫理。
どんなに情報を仕入れても、それは結局は自分にとっては他人事で、私には彼らの悲しみは分からないと、泣きたい自分を抑える倫理。

大森靖子はきっと後者の倫理を持つ人なのではないかと思う。
青い部屋」という曲には、子供が登場する。その「子供」とは、その事件に巻き込まれた子供たちであり、その作家の描き出した子供たちのことだ。
しかし、この曲は「子供たち」が住む「青い部屋」をただ「描く」だけで、「子供」たちのことを分かった振りもしなければ、この曲を聞く人に分からせようともしない。
ただ、ひらすらに、その事件や作家から大森靖子の感じ取ったもの、掴み取ったものを、「青い部屋」として描き出す。ただそれだけだ。
そ れは大森靖子の自己表現というのでもなくて、「子供」たちの世界が、大森靖子の中にある何かの感情や思いを表現するための道具となってしまうことは、注意 深く避けられていると思う。この曲は、大森靖子という人の目に見える「子供」たちのくにを、ただ、大森靖子の目に映るままに描写している。

しかし、同時に、「大森靖子」という人の目に見えるものが描き出されているのだから、当然、そこには大森靖子性というものも強く反映されている。
「青 い部屋」という曲には、「子供の世界」のことを分かった振りをしたり、自分の物差しで「子供の世界」を測って「かわいそうだね」と好き勝手に涙するのでも なく、それでも、その子供たちの世界から目を放すこともできずに、「青い部屋」という作品をつくり出した、大森靖子という人の倫理みたいなものや優しさが 滲み出している。そして、聞き手たる私たちは、そんな大森靖子の優しさを通して、「子供」たちに出会い、その事件や作家に出会う。

青い部屋」を聞く人は、まず、「子供」たちそのものではなく、歌詞を書き、曲を作り、ピアノを弾き、歌を歌い、「青い部屋」という作品を作り上げた大森靖子という人の誠実さや丁寧さに心を動かされる。
こ の曲には、「子供」たちを聞き手に引き合わせる媒体としての大森靖子という人が色濃く存在していて、その色濃さは、ただ安易に何かをモチーフにしたりテー マにして、その「何か」のインパクトをそのまま世間に提示し、晒すのではなく、大森靖子という人が、大森さんなりにその事件を引き受けた上で、世間を提示 するのだという、作品の作り手としての大森靖子という人の責任の表れでもあるのだと思う。

 

※この記事は、http://n1watooor1.exblog.jp/にて、2014/7/1に公開したものです。

 

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