ニワノトリ

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7.大森靖子「絶対彼女」と『絶対少女』の感想文を書き直した。

 

 

 

参考文献:大森靖子は「女の子」の代表ではないという話

 

大森靖子の作品についてのレビューはすでに多数存在している。当然のことながら、本人へのインタビューも、インターネットや雑誌で読むことができる。
本章では、大森靖子自身の言葉は「すべての女の子を肯定する」という《絶対少女》というアルバムのフックとなる言葉しか引用していないが、それは、大森靖子自身の言葉から離れ、〈絶対彼女〉という作品自体が持つ運動について考えてみたかったからだ。

 

しかし、またしても当然のことながら、十ページを超える本章よりも、大森靖子自身の言葉の方が何倍も彼女の作品とその意志一言で的確についている。プロ、あるいは、大森靖子を愛するファンが書いたレビューも同様である。
そこで、本章で取り上げた「ガールズ・トラブル」としての大森靖子作品について、本章が意識的にも無意識的にも影響を受けた大森靖子の言葉、そして、レビューをいくつか、ここに引用しておきたい。

 

──大森さんは、自分が女子の思いを代弁してるという感覚はありますか?

 

大森 よくわかんないですね。そんな自分が女子って感覚があんまないから。[…]女の子ってどんな生活して、どんな排便をして、どんなこと考えて生活してるんだろうっていうのをずっと考えてた。その考えてたことを論文にして提出してる気持ちですね、自分の曲は(笑)。

[…]

峯田 でもどっかではあるんじゃない? 「私が女の子たちの背中を押してあげたい」っていう気持ち。

大森 それはそうですね。「女の子たち」っていうとよくわかんなくなっちゃうけど、やっぱり自分が昔欲していたものを同じように欲しがってる人が今いるとしたら、与えたいっていうのはすごいある。

 

大森靖子×峯田和伸銀杏BOYZ)対談(音楽ナタリー)

http://natalie.mu/music/pp/oomoriseiko/ (2014/09/22閲覧)

 

 

本書では、〈絶対彼女〉というアルバムの「女の子」性を強調しているが、この対談での大森靖子自身の発言を見ると、彼女自身が自ら積極的に「私は「女の子」を代表してます!」という自己プロデュースしているわけではないらしいことが分かる。
しかし、それにも拘らず、そこに「女の子」の葛藤を読み込みたくなってしまうリスナーが少なからず存在する(本書はまさしくそうした欲望の産物である)。
例えば、大森に「女の子」の葛藤を読み込んでいるレビューには、次のようなものがある。

 

・[…]いま、女子が女子であることを祝福するには、いちど呪わざるを得ないのだろうかとさえ、彼女の歌を聴いていると思えてくる。大森靖子セカンド・フルレンス『絶対少女』は、女子への祝福と呪いとの屈辱的なせめぎ合いの果てにやっと吐き出されたジュエリーか汚物のように思える。

 

・そう、マスメディア・レベルで暴力的に欲望される「こんな風にして世間的に/対男性的に欲望されるべきふつうの女性像」をヒリヒリと内面化し、社会人の彼氏の隣を歩ける服とやらに袖を通し、やっぱり脱いでみたりして、それにウンザリしつつも完全には拒否しきれない自分を何歩も引いた場所から冷めるように自覚し、あるいは端的に美しい女子に女子として萌えながら、かつ、そんな自分のような女子に名前を付けてさらに外側から消費の材料にしようとする市場の要請と、それをさらに外側から表現の前提として踏まえざるを得ないという、自意識の奈落をどこまでも再帰させたがんじがらめの場所で……大森靖子はそれでも何かを歌っている。とても力強い声で。ここでは呪いが祝福され、祝福が呪われていく。僕はこんな歌を他に聴いたことがない。

 

竹内正太郎による〈絶対少女〉レビュー(ele-king )

http://www.ele-king.net/review/album/003500/(2014/9/22閲覧)

 

 

「女子」が「女子」を内面化する……「女子」たちは、主語と目的語を行き来しながら、自らを消費の対象として演じあげたり、自らを消費したりする。
このレビューでは、そうした、いつまでも何かの「対象」であることから逃れられない、女子たちの「ヒリヒリとした」営みを、「祝福」と「呪い」という相反する二つの言葉で表している。そして、「大森靖子」という人を、その双方を強力に往来するシンガーとして捉えている。この、「呪い」「祝福」「ヒリヒリ」というワードは、「女子」という観点から捉えた場合、大森の作品がどのようなことを行っているのか、非常に端的に突いているのではないだろうか。
「女子」になった瞬間にオトコにやられるだけじゃん! というような事態が「女子」になることの「祝福」を「呪い」に突き落とす。しかし、「祝福」はともかく、「呪い」は、本来は、隠れて丑三つ時に行うものではないか。「ヤられる」なんていう出来事は、「女子」の価値を著しく押し下げるものでしかないからだ。しかし、本当の「呪い」とは、「ヤられる」という動詞がどこまで行っても受動態で、それがそのまま=「汚される」=「恥」になってしまい、その事実を隠すことしかできないことではないか。恐らく、大森靖子が、女子であることの「呪い」を「歌」として、ステージやらYouTubeやらで、公にガンガン歌ってくれること自体が、「女子」への「呪い」が「祝福」に変わる契機になりうるのではないかと思う。

 

しかし、ここで再度注目したいのは、最初に挙げた対談で、大森が「女の子たちっていうとよくわかんなくなっちゃうけど」と言っていることだ。
確かに大森は「女子」の「呪い」や「祝福」を歌い上げてくれている。しかしそれは、「大森靖子=「女の子たち」の代表」という公式を導き出すものではない。
というより、大森靖子という人は、彼女は「女の子たち」と、彼女の現在の、そして将来のリスナーを、「女の子たち」と一括りにしてしまうことそれ自体に抵抗している人のような気がする。というのも、「女の子」を「代表」するということは、「女の子たち」一人ひとりの、また、一人の中にある「女の子」以外の部分も、すべて「女の子」という言葉で一緒くたにしてしまう。
大森靖子のライブに行くと、彼女が観客一人ひとりの顔をじっくり見るようにして歌っていることに驚く。彼女にとって、観客は一個の塊ではなく、あくまで、「一人」の人間なのだなということが伝わってくる。

大森靖子の作品は、「女子」ではなく、それを聞く、一人ひとりに向けたものだ。ゆえに、もちろん、彼女の作品は「女子」にのみ伝わっているわけではない。例えば、二〇一四年十月号の『MUSIC MAGAZINE』の大森靖子特集には、次のような文章が掲載されている。

 

「とにかく大森さんのレコード・ジャケットが無性に描きたくなりました。可憐な女の子を描く機会はたまにありますが、画風的にいつもかなり苦労をします。しかし大森さんの場合は画風のままに描けば大森さんの曲の世界観を表現できるはず、描きたい!と更に思いが大きくなって……」(本秀康)

 

「男性はこれ、引いちゃうかもしれないな、女の子は女の子たちだけで闘うしかないのかなって。でも、仲良くさせてもらっている30代前半の男性スタッフと一緒にライヴを観たら、すごく気に入ってくれて。ああ、異性も味方なんだな、性別や年齢は関係ないのかなと思いました。それは、大森さんが過激なようでいて普遍的なことをやっているからなんでしょうね」(橋本愛

 『MUSIC MAGAZINE』第46巻11号、2014年10月

 

 

「女の子」の観点から論じられることが山ほどあるに一方で、大森の作品は、「男性」である本秀康に「画風のままに描けば大森さんの曲の世界観を表現できるはず」と言わしめる。そして、橋本愛が述べているように、大森の作品は、「女の子」の闘いが「女の子」の中に閉じられたものではないことに「女の子」が気付く契機でもある。

 

何が言いたいかというと、大森は確かに「女の子」を歌っているのかもしれない。しかし、大森の作品はもちろんそれだけが魅力なわけではないし、それを「女の子」のものとして解釈するのは、あくまでもリスナー側であって、彼女自身が「女の子」を代表しているのではないのだということだ。
アーティストの言葉はあくまでアーティスト自身の、そしてそれを聞くリスナーのものでしかない。そこに、もっと広範な普遍性を見出し、解釈をするのは批評家とか評論家の役割だ(その意味で、竹内正太郎のレビューは素晴らしいと思う)。

 

大森靖子大森靖子だけしか持っていない言葉を歌っている。それは、大森にしか歌えない、新しい言葉だからこそ、彼女の作品をフックとして、新しい角度から、女子がどうとか切り込んで行くことができるのだ。
ということで、言うまでもないことではあるが、本論があくまでも、大森靖子を「勝手に」解釈したものであり、彼女は決して「女子」の代表ではないのだということを強調しておきたい。

 

***

 

以上で感想文は終わりです。
一人でもここまで読んでくださった方がいたなら、本当にありがとうございました。
読んでいただけただけでとてもうれしいです。
これをきっかけに大森さんの曲を聞いてみようかなーと思われた方や、もう一回「絶対彼女」聞き直してみようかなと思われた方がいらっしゃたなら、更にうれしいです。

最後にもう一度YouTubeへのリンクを貼っておきます。


大森靖子『絶対彼女』Music Video - YouTube

 

 

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