ニワノトリ

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普通じゃなくなっちまったアイドル、Berryz工房の10年目に括目せよ!/Berryz工房『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』の感想 1/3

※この記事は、http://n1watooor1.exblog.jp/にて、2014/5/31に公開したものです。

Berryz工房『普通、アイドル10年やってらんないしょ!?』の感想文その1です。全部で3ページあります。

「アライブモーニング」さんに、この記事をまとめたレビューを掲載していただきました。ありがとうございました



■二つの10年~道重さゆみBerryz工房


2014年春。
道重さゆみが今秋をもってモーニング娘。’14を卒業することが発表された。
た とえ世間に嫌われようと、「モーニング娘。を知ってもらいたい……」と強烈な毒舌キャラでお茶の間に爪跡を残し、モーニング娘。の名前を世間に忘れさせな かった道重さゆみ。アイドル10年選手の彼女は、同期や後輩が次々と卒業していく中、最後までモーニング娘。に留まり、10歳近く年の離れている後輩たち を引っ張って、モーニング娘。復活の兆しを手繰り寄せた。
青春の11年をすべてモーニング娘。モーニング娘。の復活に捧げてきた、アイドル:道重さゆみは今、神格化の一途をたどっている。

参考:「朝日新聞記者が「キリストを超えた(?)道重さゆみ」」

そんな道重さゆみ賛美が進む中、ハロプロの誇るもう一つの10年選手たち、Berryz工房が6/4に両A面シングルを発表する。
Berryz工房は、ただいま、デビュー10周年year真っ最中。昨年、初の武道館公演を成功させた彼女たちは、今年も9/11にも武道館コンサートが決まっており、Berryz工房の10周年は盛り上がりを見せるばかりだ。
そんなBerryz工房の35枚目のシングル。
そのタイトルは、『愛はいつも君の中に/普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』
今回着目したいのは、後者である。





モーニング娘。を知ってもらいたい」そう言って涙を呑んでは、11年間、アイドル人生を貫いてきた道重さゆみ
その悲壮なまでの「使命感」に我々ハロオタもまた涙をするわけだが、それに対するBerryz工房はどうだ。

『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』

こんなに身も蓋もないタイトルがあるだろうか。

そう、現実的に考えれば、確かに「アイドル10年やってらんない」のだ。
水物だし、女の子なんて特に「若さ」が最大に評価される世界だし。
何より、アイドルには「少女性」が求められるから、アイドルたちはいつまでも大人になれない。だからこそ、「アイドル」という世界に、10年も留まっているのはそもそもちょっとおかしい。
だからこそ、われわれハロオタは、「普通、アイドルは10年やるもんじゃないけど、さゆの10年にはドラマがあって……」と、アイドル10年の物語を再構成し、世間に対してある種の理由づけ、あるいは、言い訳をするわけである。
「確かに10年以上アイドルなんてちょっと変だけど、別におかしくなんてないんだよ。ちゃんと理由があって、物語があって、しかも、それはすごく感動的なものなんだよ。そんなさゆの姿こそがアイドルなんだよ」、と。

だから、こんなに堂々とシングル曲のタイトルで「私たち、普通じゃなくなってしまったようです」と宣言されてしまうと、「自分で言うんかい!」と盛大に突っ込まざるを得ない。

しかし、この「自分で言ってしまうふてぶてしさ」こそ、Berryz工房というグループにふさわしい。
筆者の考えでは、この「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」という曲は、Berryz工房というグループが、道重さゆみ、あるいはモーニング娘。というハロプロの看板グループとは異なる「アイドル」物語を描いてきたのだということを、端的に表した曲である。
す なわち、道重さゆみが、11年という歳月をかけて道重さゆみという「アイドル」を完遂し、秋の卒業をもって「アイドル」という物語を完成させるのだとすれ ば、10年という歳月をかけて、「アイドル」という世界、物語そのものを変質させたのが、Berryz工房なのである、と。

では、Berryz工房はどのように「アイドル」を変質させたのか。
以下、つんく♂PによってBerryz工房に託された、『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』という物語がどのように語られているのか、見て行こう。



■「アイドル」を歌い直すBerryz工房

 

まず、『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』の歌い出しを引用するところから始めよう。

  猫だって杓子だって 名刺を作れば即アイドル
  世界でもまれに見る 特殊な職業Jアイドル

 



アイドル、それは「肩書」であり、数ある「職業」の中の一つに過ぎない……
この曲がしょっぱなからハロオタに突き付けてくるのは、アイドルという物語が隠して来た、圧倒的な現実だ。
アイドルはこの世に舞い降りた天使ではないのだ、と。
彼女たちはアイドルとして生まれ、生まれた時からアイドルとしてこの世に存在しているわけではない、アイドルをアイドルたらしめているのは、その存在ではなく、「アイドル」という「肩書」「職業」なのだ、と。
この曲は、ドルオタがアイドルに抱いている夢をぶち破るところから始まる。

続く歌詞はこうだ。

  それでもたいてい続かないの 色んな意味で体力も必要(い)る
  誘惑だって半端無いのもわかるでしょ Do you know?

 



う、うん、知ってた。そうだろうなって思ってた。
……と言いたくなるようなこの歌詞。
You Tubeで検索をかけてみれば、この歌詞を証明するかのように、Berryz工房がいかに体力を削り、青春を削り、10年アイドルを続けてきたのか、Berryz工房の歴史を描いた動画がたくさん見つかる。






そう。
「「色んな意味で体力も必要」で「誘惑だって半端ない」アイドルを、Berryz工房はメンバー構成が殆ど変ることなく、10年続けて来た。」
それは、普通、アイドルがその華々しいステージの裏に秘めた物語として、オタが動画で主張するような物語なのだ。

そのようなアイドルの苦労や歴史が語られるのは、普通は「歌」の中ではない。
アイドルの「歌」は「アイドル」なるイメージを体現し、表現するためのものなのであり、アイドルの裏側、アイドルの現実はその世界観の中には入り込んで来ないのが一般的だ。
そ の裏側が語られるのはインタビュー、メイキング、ラジオなど、(主に)ドルオタしかチェックしないであろう媒体においてなのであり、だからこそ、ドルオタ はそうしたアイドルたちの苦労を拾い上げ、みんなが知らないBerryz工房を知ってもらうべく、自ら編集した「Berryz工房物語」をYou Tubeやブログや2chにアップするわけである。

しかし、『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』は、そんな秘められた物語を「曲」として発表してしまったうえ、「わかるでしょ」「Do you know?」という問いかけまでしてくる。
この曲は、
「オタ以外からは「猫だって杓子だって」できるような、「簡単そうに見えちゃう」アイドル」と、
「それを「そうじゃないんだ! みんなこんなに頑張ってるんだ!」と庇うドルオタ」
……という殊勝な構図をあっさり打ち崩すのだ。

この曲は、ある種、「アイドル10年やっちまった」Berryz工房の「開き直り」songである。
こ の曲で歌われている、「アイドル」というキラキラしたイメージの裏にある現実--「猫だって杓子だって 名刺を作れば即アイドル」という現状、それが自分 たちの「仕事」なのだという現実、その「仕事」には「体力も必要」「誘惑だって半端ない」という辛さ--は、「アイドル」と名の付く人たちはみな、多かれ 少なかれ、体感しているに違いない。
しかし、そうした現実は、普通はひっそりと隠され、オタの前でポロリとこぼされるような「裏話」として存在しているはずのものなのであり、表に出されるものではない。
だからこそ、「それでも笑顔で頑張るアイドル」という物語が、数多くのオタを惹きつけ、声援を呼ぶのだ。

だが、Berryz工房は、それらの現実を堂々と歌い上げ、社会に向かって発信してみせる。
その姿は実にふてぶてしい。
しかし、それこそが、「アイドル」10年目のBerryz工房の強さなのだ。

普通、アイドルとは「語られる」存在だ。
アイドルというイメージを提供し、オタたちに、それぞれの「アイドル物語」を描かせる。それがアイドルだ。だから、アイドルはその物語から逸脱しないように努めなければならない。
しかし、この曲は、今まで、Berryz工房が世間から、オタから、注がれてきた視線、語られた物語を、敢えてそのまま歌にのせる。

すなわち、この曲は、今までBerryz工房に、あるいは「アイドル」に与えられた物語を「歌い直す」あるいは「歌い返す」、という構造を持っているのだと言える。

「(そんなに可愛くなくても)アイドルって名乗ればとりあえずアイドルなんでしょ」
「アイドルなんて若いだけでチヤホヤされてるだけじゃない」
「女優したいとかモデルしたいとか言うけど、勘違いしたらそこまでよね」
「普通、アイドル10年やってらんないでしょ」
など。
この曲で、Berryz工房が歌い上げるのは、自らに貼られてきたレッテルに他ならない。

しかし、そうした「レッテル」を歌いあげるメンバーたちの自信にあふれた表情はどうだ。
「ねえ、本当に分かってんの?」と言わんばかりに、カメラを見つめ、「Do you know?」と問いかけるメンバーたちは、自分たち「アイドル」に注がれる視線を真正面から弾き返す。

語られるアイドルから語るアイドルへ。
この曲は、Berryz工房が自分たちをめぐる視線や物語を取り込みながら、自らのアイドル人生を振り返り、自ら再構成しなおしていく、そんな曲であると言えるだろう。
そして、そんなBerryz工房の物語を支えているのは、「10年やってきた」という揺るぎない自信に他ならない。

 

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