ニワノトリ

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普通じゃなくなっちまったアイドル、Berryz工房の10年目に括目せよ!/Berryz工房『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』の感想 3/3

※この記事は、http://n1watooor1.exblog.jp/にて、2014/5/31に公開したものです。

Berryz工房『普通、アイドル10年やってらんないしょ!?』の感想文その3です。全部で3ページあります。

 

■「おふざけ」そして「楽しさ」――「10年やってらんないアイドル」から、「10年やってけるアイドル」へ

『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』のセンターで踊っている、水色のスカートに白いブラウス姿の菅谷梨沙子の髪型と髪の色を見て欲しい。
アイドルという枠組の中で好き勝手にやる彼女の髪型を。
確かに彼女たちはアイドルで、その枠組組から大きく外れることはない。せいぜい、派手な髪の色に染め、派手なネイルをし、派手なメイクをするくらいのものだ。
しかし、彼女たちは、この10年をかけて、アイドルとして許容される(許容させる)ものを少しずつ広げてきたのだ。
昔は許されなかった金髪を、濃いメイクを、突飛な髪形を。

Berryz工房は、ハロプロ内において「個性派」と称されるグループであり、彼女たち自身も「個性派」を自認している。
このMVを見てもらえば分かるように、Berryz工房は身長、体型、髪形すべてが凸凹であり、一番身長の低い嗣永桃子と一番背の高い熊井友理奈の身長差は30cm近く(以上?)になる。
昨今のアイドル市場を見渡せば、Berryz工房以上に異質で、個性的なアイドルグループが沢山デビューしている。
アイドル×メタル、アイドル×パンク……その意外な組み合わせで、差別化が図られ、彼女たちはアイドル業界に旋風を巻き起こそうとしている。

しかし、Berryz工房について特筆すべきは、Berryz工房ハロプロ的正統派アイドルとしてデビューしたのに、何かいつの間にか個性派になってた……ということだろう。
『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』を踊るBerryz工房のバックには、かつての黒髪清楚美少女集団だった頃のベリメンの写真が張り巡らされている。
金髪も茶髪もももち結びもいない、かつてのBerryz工房
メンバー全員小学生のグループとしてデビューしたBerryz工房は、結成当初はロリ御用達グループという側面すらあった。

しかし、ロリはいつまでもロリではいられないし、美少女はいつまでも美少女ではいられない。
今や立派な「個性派」と化した彼女たちが未だ「アイドル」であり、未だにそれについて行くオタがいるのは、彼女たちが「Berryz工房というアイドルに求められているもの」を自ら変質させてきたからに他ならない。

では、今、Berryz工房に求められているものとは何か。

や はり、一つ目は「歌」だろう。『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』には「今日も歌う 大好きな歌」「それでもやっぱ歌えば官軍 これでよ かったと感極まって 涙しちゃう」という歌詞が出てくるが、この歌詞を歌わせるあたり、つんくPもBerryz工房は「歌のグループ」だと認識しているの だと思う。
菅谷梨沙子夏焼雅をはじめとした、Berryz工房7名の声には総じて厚みがあり、歌の安定感はハロプロ随一だ。どんなに個性派と呼 ばれようと、彼女たちはライブに来た客に、CDを買うオタに、きちんと歌を聞かせ、「君たちは……アイドル……なのか???」という疑問符を「とにかくこ の歌を聞いてけ」とねじ伏せる。

しかし、歌がうまいアイドルは、別にBerryz工房だけではない。歌を聞くだけなら、別に「アイドル」の歌を聞かずともよい。

歌以上にBerryz工房Berryz工房たらしめているのは、彼女たちが生み出す「楽しさ」であり、見ているものを楽しませる「おふざけ」感にあるだろう。

部分的に歌詞を見れば、『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』には、感動的で、ドラマチックなことが歌われている。
「青春全部ささげた事は 誇りに思って生きて行くわ」
「土日も全部ささげてきたよ」
「泣きたくなって真夜中ずっと涙したこともあるんだけど」
など。
涙なくしては語れない、Berryz工房の青春の日々。

しかし。
Berryz工房は素直に感動をさせてくれない。
「やっ てらんないでしょ!?」「やっちまったんだよ」という口調と言い、「石の上でさえ3年だよ」や「別腹だよ」という言い回しといい、つんく流の聞き手を脱力 させるような言葉の選択、コミカルな曲調とダンス、全てが、見ている側の失笑すら誘う(途中に差し込まれている馬の鳴き声とかなんだよアレ)。

しかし。
そうした、「コミカルにしてしまう」力技こそ、まさしく、Berryz工房最大の武器なのだ。
例えば、「好きな事だって 仕事となりゃ別腹だよ」という表現。
「別腹」とは、普通はお腹いっぱいなのにアイス食べちゃう、みたいな状況のことを指すので、「仕事でも好きな事なら別腹だよ」とするのが自然な日本語だ。「仕事で疲れてて多少キャパシティーオーバーでも、好きな事ならこなせちゃうよ」と。
だが、ここで、Berryz工房は、敢えて「別腹」の意味を反転させ、「アイスは別腹だよね」というように、「仕事は別腹だよね」と歌う。
「ただ、仕事となると辛い」と歌うのではない、Berryz工房の力強さがこの曲にはある。

この曲を歌い、踊る彼女たちの姿はかっこいい。
ダンスショットもクローズアップも、所作から表情まで、10年選手たる彼女たちのパフォーマンスは完璧だ。バックで踊っている時ですら、彼女たちの表情は余裕でアイドルしている。
彼女たちはこのMVの中で、まじめにアイドルとしての仕事をこなしている。
そして、真剣に、かっこよく「石の上でさえ三年だよ」とかいう自虐ネタをかっこよく歌い上げてくれてしまうものだから、やたらと面白いし、見ていて楽しい。
彼女たちは実に真剣にふざけている。

この曲が表しているのは、きっと、Berryz工房は、この10年をかけてBerryz工房に求められるものを、「ロリ」や「美少女」から、「歌うことの楽しさ」にすり替えていったということなのだ。

「普通、アイドル10年やってらんない」
そ れは、あからさまに「若さ」「清純さ」「フレッシュさ」が評価される女性アイドルにとって残酷な現実だ。同時に、「いろんな意味で体力もいる」「誘惑だっ て半端ない」という芸能界の厳しさに10年晒され続けることも、友達はママになったのに、自分は未だママにダメ出しされているという、同世代の子との生活 のズレも、彼女たちが向き合わなければならない切実な問題であると思う。

モーニング娘。はそういった、女性アイドルが抱える問題を、卒業 制度による歴史の継承というシステムによって乗り越えてきた。モーニング娘。のメンバーは、いつか来る卒業の日に向けて、それぞれの「アイドル性」を高 め、完成させ、それによって、モーニング娘。の歴史に名を刻んで行く。
しかし、加入・卒業という入れ替え制度なしで10年間やってきた Berryz工房モーニング娘。とは事情が違う。Berryz工房にとっては、メンバー=Berryz工房の歴史なのであり、そこからの「卒業」が用意 されていない以上、Berryz工房にもメンバーにも、目指すべき完成点はない。Berryz工房が続く限り、彼女たちはBerryz工房を支え、進化し 続けなければならない。
そんなBerryz工房が選んだのは、女性アイドルが抱える「時代の流れ」や「加齢」といった切実な問題を、『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』という一つ作品に昇華させて、楽しくかっこよく歌い上げることだった。
Berryz工房の最大の魅力は「真剣に」ふざけることができるだけのアイドルスキルと、それによって生み出される「楽しさ」だ。
この「楽しさ」こそが、Berryz工房というアイドルが「それでも」アイドルを続けて行くことを支え、10年目のさらに先へと続いて行くBerryz工房の新しい未来を予感させるのである。

 

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