ニワノトリ

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イミテーションボーイ/大森靖子『洗脳』の感想 by友人

いつも理屈っぽい感想文ばかり書いている私を見かねて、友人が『洗脳』 に関するエッセイを書いてくれました。

私の感想文→ ここ

◇大森さん感想シリーズLINK◇
※「きゅるきゅる」など → 『洗脳』関連感想シリーズ

※『絶対少女』→ 『絶対少女』感想シリーズ
※『魔法が使えないなら死にたい』→ 『魔法が使えないなら死にたい』感想シリーズ

 

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発売日に買ったCDが鞄の中に入っている日には、いつもより念入りに手を洗います。部屋に入ったら、制服を着替える前に封を開けずにはいられません。透明なビニールを綺麗にはがせたら、お年玉で買ったCDコンボのスイッチを入れて、部屋の電気を消します。真っ暗な部屋で、大好きな人の声を聞きます。CDコンボが示すトラック番号を見つめながら、その人が作った新しい言葉に耳を澄まし、その歌声が私をどこかに連れて行ってくれるその瞬間を逃さないように、心の準備を整えるのです。


――というように。明日を生き延びるために必死でJ-popを聞いた頃が僕にもありました。
一周目は、真っ暗な部屋で歌詞カードを見ずに。二周目はスタンドの電気をつけて歌詞カードをじっくり眺めて。好きなアーティストのアルバムが発売されるたびに、その音楽を聞く瞬間が僕だけのものであるように、誰にも邪魔されないように、この瞬間が他の誰にも分からないものであるように祈りながら、僕は僕が新しい音楽に出会うための儀式を行っていた。

それが僕のノスタルジックJ-popです

そんな感覚は久しく忘れていたのだけれど、大森靖子さんの『洗脳』を買った今日は、久しぶりに、部屋の電気を消してみました。お年玉をためて買ったCDコンボは実家に置いてきてしまったので、CDを再生してくれるのは僕のダイナブックです。電気スタンドをつけて聞きました。ピンク色の歌詞カードをめくりながら、もう十年以上前、初めて好きになった歌手のCDアルバムを買った時のことを思い出しました。二十代の僕は、自分を十代のあの頃に巻き戻すように、大森靖子のメジャーファーストアルバムを聞き始めたのです。

しかし、『洗脳』も後半に差し掛かったころ、僕は部屋の電気をつけました。

あの頃の聞き方では全然間に合わなかった。
『洗脳』は、電気を消して、どうせみんなには分かんないよと、自分を閉じ込めながら聞く音楽ではなかった。むしろ、電気をつけるためにあるアルバムだった。『洗脳』を聞き終わったとき、僕は、早く部屋の外に出たいと思いました。もう夜だけど。

 


大森靖子「ノスタルジックJ-pop」MusicClip - YouTube

 

暗い部屋で音楽の内側に自分の影だけ追いかけていても意味はない……『洗脳』はそんなアルバムでした。
一つひとつのフレーズの後ろに、アンダーグラウンドの外に出るための紐が伸びているような。もっと楽しくて、広くて、ごちゃごちゃしている世界が広がっていくような。一つひとつの曲が進むたびにその世界がもっともっと楽しく見えていくような。
『洗脳』が終わる頃には、あ、自分を切なくするためだけにJ-popを聞くのはやめよーという気になるような。
そんなアルバム。

 

そんな歌くらいでお天気くらいで 優しくなったり悲しくなったりしないでよ
『ノスタルジックJ-pop』

 

うん。やまない雨なんてないらしいけど、そんなことは知らない。

『洗脳』を聞いて、僕の頭は、明日が雨でも晴れでも曇りでも霰でも、とにかく毎日をもっと楽しくするために生きて行こうと、洗脳されました。
たくさんの人に、このアルバムを聞いてほしい。限られた人で、大森靖子を占有するのはもったいない。
今、僕は心からそう言えます。早く、みんなに洗脳されてほしい。


By友人