ニワノトリ

Twitter:@ok_take5、メール:tori.niwa.noあっとgmail.com

『VOID』という間隙

最近、大森靖子さんの『VOID』を聞くと、私の頭に、とある"フィクショナルな"風景が浮かんでくる。

ということを書き留めておくための日記です。

 

※『VOID』は大森靖子さんのアルバム『クソカワPARTY』に収録されている曲です。

 

**************************

 

大森靖子の『VOID』を聞きながら、わたしはわたし自身のあまりに"ヘテロセクシュアルな"欲望を眼差している。それは、大森さんが女性の身体で、女性の声で、『VOID』を歌っていることに、関係しているのかもしれない。

 

『VOID』は"僕"が何らかの好意を持つ、しかし、恋愛関係にはない女の子に向けて歌った曲だ。「家をぬけ出して僕の部屋においで」と始まるこの曲で、"僕"は、"君"に向けて「僕じゃ満足できなかったなら明日忘れていい」と歌う。
これは、「友達でもない 恋人でもない」、二人が過ごす夜の歌だ。

 

笑わなくっても余裕で天使さ
愛したふりして抱きしめてくれたら
VOID ME VOID ME VOID ME
友達でもない 恋人でもない
もしかしたらもう二度と会うこともない
VOID LOVE VOID LOVE
何もなかったかのように

 

「VOID LOVE」=空っぽの/欠けた/無効の愛。もしくは、愛を空にする。
"僕"は"君"が"僕"ではない誰かを愛し、抱きしめることを知りながら、"君"への気持ちを歌にしている。

 

だから、わたしは、この曲を聞きながら、夢想する。
わたしが"僕"となり、大好きなあの子に向かって、「VOID」を歌っているところを。わたしが、男の身体を持つ"僕"として、大好きな君に重なりえない想いを向けている様を。

 

どうせ僕のこと BABY 女友達に話さないでしょ

 

この歌詞を聞く度に、わたしはわたしが女である限り、君にとって、誰にも話さないような"秘密の"関係にはなれないのだということを知る。
「友達でもない 恋人でもない」関係も。「家を抜け出して僕の部屋においで」という歌詞が持つエロティックな魅惑も。
君が男の子を好きになる女の子なのなら、わたしには永遠に手に入らない。
たとえ、君がわたしの部屋に来る夜があっても、君はそのことを、女友達にも男友達にも恋人にも、何も隠すことなく報告するのだろう。

 

「VOID」の歌詞は、最初から最後まで、わたしと君には持ちえない、"僕"と"君"だけが持ちうる関係を歌っている。
「何もない=なんかしたい」としても、わたしには、「本当に何もできない」。
"ない"の前にある"何"そのものが、わたしと君の関係性において、あらかじめ削除されているのだから。

 

この曲が男性の声で歌われていたら、わたしの頭には訳の分からない感情が渦巻いて、この曲から目をそらしていたかもしれない。
もしくは、わたしを"僕"として聞こうとすることもなかったかもしれない。
大森さんの声で聞くから、夢想できる。
わたしが、"僕"として、君を「部屋においで」と誘っているところ。
「友達でもない恋人でもない」くらいの距離を開けて並んでソファに座り、ゲームをしているところ。

 

大森さんがこの曲を歌うから、わたしは"僕"を追体験しながら、同時に、"僕"が歌う全ての場面を手に入れることのできない"わたし"の空虚を聞くこともできる。

 

だから、わたしにとって、『VOID』は二重の「VOID LOVE」を歌っている。
一つは、この歌詞の中の"僕"の「VOID LOVE」。
もう一つは、どうしたって、そんな「VOID LOVE」を歌えない、わたしの「VOID LOVE」。 

"僕"の愛はすでに失敗している。"わたし"はその失敗をフィクショナルに夢想する。
『VOID』を聞きながら、存在しえないわたしの身体が空を打つ。このエゴイスティックな空隙を歌う『VOID』が狂おしいほど好きだ。

 

*******************:

おわり。

 

Twitterで、『VOID』について話しかけて頂いたので、聞きながら頭の中に浮かんでくる、一つの解釈を書いてみました。色んな性別やセクシュアリティを想起しながら聞ける曲だと思います。

 


記事らしい記事ではないですが、大森さんに関するブログを書いたのは久しぶりです。
Twitterにも書いたのですが、今までに書いてきた大森さんの考察とか感想について、未熟なところが目立ち、今もそこを脱しえていないと思うので、最近はあまり解釈ブログ的なものが書けていないです(今までアップしたものについて、公開したこと自体には悔いはないです)。
でも、先日に行ったクソカワPARTY@東京がとても良かったので、また、『クソカワPARTY』についても記事を書けたらいいなと思っています。