ニワノトリ

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「生kill the time 4 you、、❤」を聞いて地球で息をする方法を知る/大森靖子「生kill the time 4 you、、❤」@『TOKYO BLACK HOLE』の感想文

大森靖子さんのニューアルバム、『TOKYO BLACK HOLE』が、2016年3月23日に発売されます!

 

その中から、「生kill the time 4 you、、❤」("いきる ざ たいむ ふぉーゆー" と読む)のMusicClipが公開になりました。

 

www.youtube.com

 

 

いい曲!いい曲なの!とにかく聞いて!

という気持ちを込めて、感想文を書きましたので、以下に記します。

 

 

 

 

 

■ 「生kill the time 4 you、、❤」には、"もしもし地球"というSF的希望がある

 
星新一小松左京。SF小説から覗き込む私たちの地球はあまりにもちっぽけで滑稽だった。学校の図書館で借りた15cmセンチメートルの文庫本は、私の小さな部屋を無限の宇宙空間へ押し広げる。

 

"私がいま、居るのは、こんな小さい部屋の片隅なんかじゃない。"

"私が毎日通っているのは、休み時間を誰にも嘲られずにやり過ごす方法ばかりを考えている狭い教室なんかじゃない。"

"私がいま、生きている場所は、広大な宇宙空間、その中の地球なのであって、世界は私の目に見える世界よりもっと広大で、私の想像が及ぶ範囲なんて、そのほんの一部分でしかない"

 

いま、自分の生きている場所がこの世のすべてではなくて、もっと広い空間の、ごく一部でしかないのだということ。
SFの想像力は、その宇宙的な観点から、私の生きる世界の狭さを私に教えた。

 

 ようこそ 地球 ここは 安全圏 じゃないっすよ

 

これは、大森靖子「生kill the time 4 you、、❤」の歌い出し。
この一節は、私に、上記のようなSF小説的希望の感覚を思い起こさせた。

 

例えば高校生の私が、教室の片隅で「かわいくて金持ちのあの子はこの教室をうまく生きられるのに、私はどうしてこんなに息苦しいんだろう」と思っていたとして。
「ようこそ 地球 ここは 安全圏 じゃないっすよ」の一行は、私を、そんな近視眼的世界から掬い上げるだろう。

 

まず、「ようこそ 地球」の一言で、私は気が付く。
"私が生きている場所は本当に教室、それだけなのか(いやそうではないのでしょうね)"ということに。
もしかしたら、生きる場所を教室に狭めているのは、何よりも、私の足元に広がる広大な地球という存在に気付くことすらできない、私自身の狭量な想像力なのかもしれない。 

 

その後の、「ここは 安全圏 じゃないっすよ」で、さらに思う。
うまく、苦も無く生きているように見えるあの子を妬んでしまうのは、誰もが何の労もなく安心安全に過ごせて当たり前だと、心のどこかで思ってるからかもしれない。
この世界が、元から、誰にとっても安全圏なのではないのだとしたら。
私が息苦しいことは、私がここで生きてはいけないということを意味しているのではない。

 

こうして、ようこそ 地球 ここは 安全圏 じゃないっすよの、たった一行で、私は、自分を狭い世界の中に閉じ込めようとする想像力を、もっと大きな、宇宙規模のものに解放することができる。そして、狭い世界の中で生きづらい思いをしながらも、それでも何とかそこで息をしようとする自分自身を肯定できる。

 

「生kill the time 4 you、、❤」は歌い出しからして既に、地球を飛び越えた想像力を発揮し、その想像力でもって、聞き手を、今いるところよりもっと広く自由な世界へと解放し、同時に、聞き手が今いる場所で呼吸することを肯定する。そんなとんでもないことをやってのけている。

だから、私は、この歌い出しの一行だけで、「生kill the time 4 you、、❤」が大好きだ。

 

 

 

 

■「生kill the time 4 you、、❤」を聞いたら、地球での息の仕方が分かってしまう

 

そして、もっと先に聞き進めれば聞き進めるほど、「生kill the time 4 you、、❤」が好きになっていく。
というのも、この曲は、

 

お揃い の 空 を 背負って 息をしている

 

という歌詞で歌い終わる。
つまり、この曲を聞き終わる頃には、聞き手は、「安全圏じゃない」地球での息の仕方が分かってしまうのである。
今、居る場所で、息をし辛い思いをしている人間にとって、こんなに夢と希望がある曲があるだろうか。

 

「お揃いの空を背負うような相手が私には居ないんだよ」という非リア充の人、回れ右をするのはちょっと待ってほしい。
もう一度、この曲の歌い出しを思い出してみよう。

 

ようこそ 地球

 

もう、この歌い出しの時点で、あなたはすでに「ようこそ」と、地球へ歓迎してくれる「誰か」に出会ってしまっている。

 

例えば、SF小説で「ハロー 地球のみなさん」と話しかけられた時、地球人は何を体験しているのか。
その瞬間、地球人は、「地球ではない」新しい何かとの出会いを体験している。
それと同じように、「ようこそ」と言われる時、あなたは「地球」という新しい世界に降り立つその瞬間を体験している。

 

呼び出しちゃって ごめんね
キラキラ ぶっつぶせ 世界 

君の戦い 出遅れたスーパーヒーロータイム
もっとはやくね、、会いたかったなあ~、、、

 

こうした歌詞を聞いている、あなたは少なくとも、 "大森靖子"に呼び出されているし、話しかけられているし、出会っている。「お揃いの空を背負うような相手」はこの曲の中に確かに存在しているのだ。

 

「生kill the time 4 you、、❤」の中で、私たちは、「ようこそ」と話しかけて来る“大森靖子”という人にいざなわれて、地球に降り立つ。
だから、この曲を聞きだしたその時からあなたの目の前には “大森靖子”がいて、あなたは “大森靖子”に出会っていて、この曲を聞き続ける限り、あなたが独りであり続けることはできない。

 

キスしたら お揃い の 頬の色 で 明日も戦える
お揃い の 空 を 背負って 息をしている

 

「生kill the time 4 you、、❤」で "大森靖子"に人工呼吸をされてしまったなら、あなたは、 "大森靖子"と同じ地球の上で息を吹き返し、息をし始める。

 

 

 

 

 

■「生kill the time 4 you、、❤」は、地球のみなさんに話しかけ続ける

 

……上では “大森靖子”という固有名詞を用いたけれど、もちろん、この曲でいう「君」と「私(?)」の関係性が大森靖子と聞き手の関係性のみを指し示している。……なんてことはあり得ないと思う。
恋人同士とか。友達同士とか。母親と生まれたばかりの子どもとか。
とにかく、「生kill the time 4 you、、❤」は、この世の中にある、色んな誰かと誰かの間に生まれる感情や関係のことを歌っている。

 

というのも、この曲は、とにかく、なんども、

 

ねえねえ

 

と話しかける。
そして、

 

こんなに好きとか
大変大変~

好き嫌い好き嫌い好き

 

と君への思いを矢継ぎ早に歌う。
更に、

 

季節 は 通り魔  私の腕 から 掻っ攫っていく
よろこび も かなしみ も 
死んでも 記憶していたいよ、 全部

 

と、君と接する中で生まれた感情を全部記憶していたいと歌う。
しかも、こんなにも「君」に話しかけ、君への思いや感情をすべてそのまま抱え込もうとしているのに、それでも、

 

足んない足んない

 

のだと訴える。

歌詞に多用されている絵文字だってそうだ。

この曲はとにかくずっと「君」に伝えようとしている。
君と出会い、君と一緒に居る、その一瞬一瞬に伝えきれないほどの感情が生まれ、たくさんの奇跡が生まれうるのだということ。

 

狭い世界の中で、うまく行かない日々に雁字搦めになっていると、世界にも自分にも絶望して、自分の中から、「自分がまだ知らない誰か」に出会う可能性を消してしまう。

もうここで自分は終わりだ・どこにも行けない・何もできない

だけど、「生kill the time 4 you、、❤」は、そんな「君」に話しかけ、伝えようとする。
あなたがいる世界より、もっと広い世界があるのだということ。
そこであなたが生み出しうるものがこんなにもたくさんあるのだということ。
「生kill the time 4 you、、❤」の中には、「もっと広い世界」への扉が用意されていて、そこでは、「君と出会う」ことが生み出しうる、感情の束や奇跡が、矢継ぎ早に歌われている。

 

だから、私は、「生kill the time 4 you、、❤」は、インターネットを立ち上げて8を連打すれば誰かに自分の思いを届けられるこの社会で、それでも狭い世界から抜け出せずに息苦しい思いをしている私たちに、声をかけ、話しかけ、もっと広い世界の声を聞かせるために歌われた一曲だと思う。

 

 

 

 

以上、色々と書きましたが。

“TOKYO BLACK HOLE”の中で歌われる、地球で息をする方法。

なんか、これだけですごく素敵じゃないですか? 
YouTubeもいいけど、やっぱり、アルバムで聞くのがとっても楽しみです。

 

 

 

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