ニワノトリ

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千々に乱れる /大森靖子「あれそれ」@『絶対少女』の感想

大森靖子『絶対少女』の感想を一曲ずつ書いて行っています。 → 絶対少女 - ニワノトリ

今回は、13曲目、『あれそれ』の感想を書こうと思います。



 

『絶対少女』というこのアルバム。
テンション高い曲から次の曲でいきなり静かな曲に急降下したり。優しげな曲から暴力的な曲にシフトチェンジしたり。
聞き手の心を大きく上下に揺さぶるような曲の並べ方をしていて、とても心憎い。

そして、私は、12曲目の『青い部屋』から13曲目の『あれそれ』への流れが一番心憎く思った。

(歌詞と解説は こちら から)

『あれそれ』というタイトルの通り、この曲、あの話をしたり、その話をしたりと、やたらと話が飛ぶ。
そして、「あの話」も「その話」も具体的には何のこと何だか、さっぱり分からない仕様になっている。
だから、この曲を聞いている最中、聞き手としての私の頭の中には常に「え?何の話? え、今度は何の話? え、もう次の話行くの? だから、何の話?」とクエスチョンマークが飛び続ける。
話に全然ついて行けないし、置いてけぼり感満載で消化不良感がすごい。

例えば、↓のような感じ。太字が歌詞で、()内がその歌詞を聞く私の呟きである。


  ママの会社がつぶれて後始末(大変だね……
  爪をパチッと切ったらとんでった
(あ、うん、そういうことってあるね会社の話どこいった?爪って何かの隠喩?
  暮らしの残骸を食らいに来いよほら(残骸?爪のこと?っていうか誰に言ってるの
  結婚式もサボっちゃえ
(誰の?え、これ誰に言ってるの?自分?っていうか結婚式どこから出て来た? 
  大事なことは
  ここよりもうちょい前だったんだよ
 (ああ、その一節はちょっとグサっとくるわ


大森さんの歌詞に共振できる人はついて行けるのかもしれないけど、私の頭は↑のような感じでさっぱりついて行けなかった。
頭の中に舞う「何の話してんの?」「その話どこから出て来たの?」という疑問符たち。

たぶん、どの歌詞も、この曲の歌い手の頭の中で暖められていた情報や感情や思いの切れ端なんだと思う。
『あれそれ』は「あれ(あの話)」や「それ(その話)」の切れ端をパッチワークするかのようにしてできている。
歌い手の頭の中には、「ママの会社がつぶれたのはあの話」「結婚式の話はこの話」「大事なことはここよりもうちょい前だったのはあの話」と、それぞれの切れ端の先にある話の全体像が収められているのだろう。
が、歌詞として表出しているのはその一部だから、聞き手としては、なんのこっちゃよく分からん。


この曲の一曲前の『青い部屋』では、この曲が何のことを歌おうとしているのかが、比較的明確だった。
タイトル通り、『青い部屋』は「青い部屋」について歌われているのだし、「青い部屋」がどのような部屋なのか、そこに誰がいるのか、どんな情景や思いが歌い上げられようとしているのか、イメージしやすい歌詞になっていたと思う。
何より、大森靖子自身が解説で、この曲が何について歌っているのか、事件名や作家名を具体的に明言している。
青い部屋」では、この曲は何について歌っているの? という問いに、一応の答えが用意されていた。

そんな、何を指し示しているのか具体的なように感じられる「青い部屋」の後に歌われる、「あれそれ」という、何を指してるんだかさっぱり分からない曲。

それこそ、この曲を聞いた私は


  それがどれのことか
  わかんない


状態だ。
青い部屋』は、あんなに、それがどれのことか分かりやすい感じだったのに。
青い部屋』からのこの落差に、何だか心を弄ばれているような気すらして、私の心は千々に乱れた。

しかも、『あれそれ』という曲。
どの歌詞も意味はわからないんだけれど、「え、それってどういうこと? kwsk」と言いたくなるようなものばかりなのだ。
「ちょっと待ってよ、この話もうちょっとしようよ……」という私の気持ちを無視してどんどん違う話が始まるから、更に辛くなる。

しかも、この曲、そんな私の心情を見透かしたかのように、


  それがどれのことか
  わかんなくてもいいよね



と終わる。
そして、大森靖子に「わかんなくてもいいよね」と言われてしまうと、そうなのかもしれない……。
という気にさせられてしまったりもする。



一言で言うと、正直、この曲はよく分からなかった。

じゃあ、他の曲は分かってたんかい、と言われると「いえ……」となるのだが、少なくとも、無理やり私の文脈に惹きつけて、何かの脈略を持たせることはできた。
脈 略を持たせるのが難しいという意味では、『エンドレスダンス』や『Over The Party』もそうだったんだけど、『エンドレスダンス』は、エンドレスにダンスをし続けたいという欲求が曲の背後に一貫して流れている気がしたし、 『Over The Party』も元ネタはよく分からなかったけど、「Over The Party」するエネルギーについて歌われているらしいということでは、一つの流れを感じ取ることができる気がしたし、そもそも、「元ネタ」があるらしい という点で、大森さんの中では何か一本の筋が通ってるんだろうな、と推測することができた。

しかし。「あれそれ」については、何が一貫しているのかよく分からなかった。
ただ、大森靖子という人の頭の中では、色んな感情や洞察や思いが浮かんでは消え、すぐに次に移行し……ひと時の間にこんなにも色々なものが入り乱れまくっているのか、と想像すると、大森さんの頭の中をチラッとのぞけたような気もした。

ただ、大森さんに限らず、人の頭の中なんて、チラッとのぞくだけでもできたら御の字なのかもしれない。
歌 であれ、小説であれ、絵画であれ、それが一つの物語を持つ作品として完成されたものであったとしても、人の頭から生み出されるものの中で関連付けたり意味 をつけたりすることのできるものなんてほんの一部で、実は、関連付けたり、意味をつけたりしようとするその行為は、すごく不自然で無理やりなことなのかも しれない。

逆に言えば、映画であれ小説であれ歌であれ、何らかの作品を作る人たちは、自分の頭の中の「あれそれ」を人に伝わるように並べ直すという作業をしているわけで、それって、実はすごく無理のあることで、一つの作品を作り上げるとは、とてもエネルギーのいることなのだろう。

この『あれそれ』という曲も、なんだかんだ言って、一つの作品としてまとまっているから、この一見、脈略のない歌詞を一つの作品としてまとめあげる大森さんの歌声や演奏の力技は、すごい。

 

※この記事は、http://n1watooor1.exblog.jp/ にて、2014/7/3に公開したものです。

 

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