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断罪する君/大森靖子「hayatochiri」@『絶対少女』の感想

大森靖子『絶対少女』の感想を一曲ずつ書いて行っています。 → 絶対少女 - ニワノトリ

 

 

『絶対少女』感想文もついに折り返し地点を越えて、9曲目、「hayatochiri」にまでたどり着きました。

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■畳みかけては突き放す

この曲は展開が早い……というか、とても鋭角な展開をする曲だと思う。
たとえば、一番のこの部分。


  ゆるめのゆめは容赦なく あんなに大事なイタズラだって
  溺れる夕日に燃え尽きる命を重ねてセンチメンタルできるほど
  やり尽したことなんてひとつもないのに泣いている



この部分を聞いた私に大きなダメージを与えたのは「センチメンタル」から「できるほど」に至る展開だった。
この曲の歌いだし、「あと一手で詰んでる終盤戦 一歩が飛びこめない中央線」から、「燃え尽きる命を重ねてセンチメンタル」に至るまでの歌詞はとてもセンチメンタルだ。
しかし、そのセンチメンタルは、突如、「センチメンタルできるほどやり尽したことなんてひとつもないのに泣いてる」と、唐突に突き放されてしまう。
「そんなの真のセンチメンタルじゃねーよ、お前にはセンチメンタルになる資格ねーよ」とでも言うように。
それまで、歌詞のセンチメンタルさに自分を重ねて聞いていた私は、私の感じた「センチメンタル」を断罪されたような気分だった。
しかし、「センチメンタルできるほど」でないというその言葉は、まったくもってその通り私に当てはまるので、なんかぐぅの音も出なかった。


「センチメンタル」な歌詞を歌った後、即座に「でもないのに泣いてる」と畳みかけるような、「さっきまで主観的だったのにいきなり自分を客観視して突き放す」展開をする歌詞は、上記の部分だけではない。


  生まれた季節が大好きで 生まれた季節に出会った人なら
  ちょっとは優しくできる気がする ちょこまか貯金をためてく



という部分もそうだと思う。
「生まれた季節が大好きで、生まれた季節に出会った人ならちょっとは優しくできる気がする」のあとに、即座に「ちょこまか貯金をためてく」と付け足してしまうこの感覚。
この歌は、
"「生まれた季節が大好き」だから「生まれた季節に出会った人ならちょっとは優しくできる気がする」"
そんなとりとめもない夢が夢であり続けることを許さない。そんな星占いみたいな夢は「ちょこまか貯金をためてく」という歌詞に置き換えられる。
結局、この部分の歌詞が歌っているのは、「優しくなれた」自分ではなくて、「優しさ」を「ちょこまか貯金」する、必死で滑稽な自分だ。
歌いだしの部分で、「それは真のセンチメンタルではない」と自分のセンチメンタルを信じていなかったように、ここでは自分の「優しさ」が信じられていない。


「センチメンタル」にせよ「優しさ」にせよ、この曲は、自分の中の感情を美しく描き出した後に、一気にそれを突き放す。
こ のような、自分の「センチメンタル」や「優しさ」を加速させながらも、それが最高速度に達する前に、「何言ってんの私」と自分で自分にブレーキをかけてし まうような感覚は、「絶対彼女」をはじめ、「エンドレスダンス」など、多くの大森作品に通底するものなのではないかと思う。
(さらに、自分で自分の発言を「厨二っぽい」とか「メンヘラっぽい」と自虐(?)してしまうような、インターネットの感覚にも通じるものがあるかもしれない)。


■後ろめたさを突き抜ける

「hayatochiri」は、上記の引用のあとに、以下のように歌っている。


  だからSEKAINOOWARIより 終わってるわたしにできること
  勝ちパターンと負けたときの言い訳 告げ口のように歌ってる
  告げ口のように



ここでも、この曲は、自分の「できること」を「勝ちパターン」と「負けたときの言い訳」というカテゴリーに押し込め、なおかつ、それを「告げ口のように」と貶める。
この曲は、自分を認めることを恐れるかのように、次々と自分を貶めていく。
繰り返される「告げ口のように」という歌詞には、「歌う」ことへの後ろめたさが見え隠れする。それは、生きることへの後ろめたさでもあるのかもしれない。


しかし、大森靖子大森靖子たるゆえんのは、自らの背負う「後ろめたさ」に負けず、それを「後ろめたさ」のまま終わらせないところにあるような気がする。

というのも、この曲は最後に、


  イタくなきゃつまんないよ
  いつかざまあみろっていいたい
  いいたい



という歌詞をつけて、歌詞の世界をもう一度展開させるのだ。

ここで、大森靖子は、自分の「イタさ」を肯定している。
ここでいう「イタさ」とは何か。
たぶん、一つ目は、「痛々しい」こと、すなわち、「イタいやつ」であることかな、と思う(思うっていうか、大森さんの解説にも書いてあった……)
これまで、この曲は、「センチメンタル」になったり「優しくなれる気」になったりする、自分の「イタさ」を歌ってきた。
自分のセンチメンタルに「センチメンタルできるほどやり尽したことなんてひとつもないのにね」と突っ込み、自分の優しさに「ちょこまか貯金をためてるだけじゃん」と突っ込み、自分のできることを「告げ口のよう」と突っ込み、自分の滑稽さ=イタさを示して来たのだ。

しかし、最後の最後で、この曲は「イタさ」を肯定する。

(私が)思うに、ここでいう「イタさ」っていうのは、「あいつ、イタいやつだよな」というような目線だけを指しているのではない。
それは、きっと、自分をなんとか「現実」の側に「押しとどめる」という運動の「痛み」のことでもある。
(私 の解釈では)大森靖子は、自分の抱えた傷や優しさに心から酔うことはない。大森請子は、自分の「センチメンタル」や「優しくなれる気がする」気持ちに酔い そうになってしまったその瞬間に、自分が完全に自分だけの世界に浸り込んでしまわないように、自分を現実の側に押しとどめるためのブレーキを思い切り踏み 込む。
「hayatochiri」に限らず、彼女の歌の中では、いつも、自分に酔いそうになる自分とそれにブレーキをかける自分の駆け引きが歌われているような気がしている。

自分で自分に酔うという行為は、自分を慰め、自分を癒し、自分で自分を労わるものだと思う。
だから、自分を癒す夢を見ようとする自分を無理やりたたき起こし、「お前にそんな夢を見る資格はないよ」と耳元で叫んで、布団をはいでしまうような彼女の世界観は「痛い」ものであるに違いない。
きっとそうした「現実」と「自分」の間で生まれる「痛さ」こそが、大森靖子の世界を作り上げ、成り立たせている(たぶん)。

そして、そうした痛みは、痛いからこそ、歪なものとして表に表れざるを得ない。
だから、それは時に「イタく」見えてしまうこともあるのだと思う。

確かに、そういう「痛さ」をスマートに表現できる人もいると思う。
ただ、大森靖子はきっとそうじゃない(もしかしたら、「やらない」の方が近いかもしれない)。
だから、大森靖子が「イタく」見えるのは、「痛く」あることで、自分を現実の側に留めようとしているということでもあるのかな、と思う。


■「イタさ」を引き受ける誠実さ


「イタくなきゃつまんないよ」と「イタい」ことを、歌詞の中で肯定する大森靖子は、自分が生きている社会に対しても、自分自身に対しても、誠実なんじゃないかという気がしている。
イタくないと生きていけないなら、それを堂々と歌い上げるしかない。
この曲は「私、イタい人間だよね……」という言葉で語尾を濁らせ、誰かの「そんなことないよ」というフォローや「分かるよ」という共感の慰めを待つ前に、「イタくなきゃつまんないよ」と自分で自分の「イタさ」を肯定しようとする。

「告げ口のように」という歌詞を聞いた時に感じたことなんだけど、大森靖子の中には何らかの倫理観がある。気がする。
「傷」に酔って、世の中とは別の場所に行って自分を慰めようとする自分自身を、「それはよくない」と否定し、断罪するような、倫理観が。

大 森靖子はいつも、自分の感情や「イタさ」をただ投げっ放しにするんじゃなくて、歌詞を通して自分が社会に向かって投げつけたものを、同じ歌詞の中で、自分 の中にもう一度引き受け直そうとする。その姿勢には、自分の歌詞に対する責任感みたいなものを感じて、いつも感心する。大森靖子は自分の言葉に存外に誠実 だし、そこが、ある意味、大森靖子の最大の魅力なんじゃないだろうか。

サブカルにすらなれない歌がある世界や、東京にしかアンダーグラウンドがない世界は、いつか、「誠実」であり続けた大森靖子に「ざまあみろ」と言われることになるのだと思う。
それは、きっと、自分の「イタさ」を引き受けずに、何となくスマートに生きてきた報いだ。



■ちゃゆなの?

最後に。
最初に貼ったのとは違うライブ版の映像で、大森さんがやっている手の振りに、思わず「……ちゃゆ?」ってなったw 
2:56-3:05あたりの、「パチパチを頭の中 何かが燃えて消えてゆく ゆるめの夢は容赦なく あんなに大事なイタズラだって」を歌っているところ。
「Fantasyが始まる」の道重さんの振り付けを彷彿させられました。 




2:56-3:05あたり。



0:37-56あたり。

 

※ この記事は、http://n1watooor1.exblog.jp/ にて、2014/6/3に公開したものです。

 

 

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