ニワノトリ

Twitter:@ok_take5、メール:tori.niwa.noあっとgmail.com

青柳カヲル"THE LAST LIVE"を見た人の手記ブログ(5)

2021年3月16日、一部内容修正しました。

2020年10月11日 11時59分(PM)

10月に入ってから、他ならぬ青柳カヲル自身が自分の「顔出し」についてnoteで言及し、文章にしました。

生存を宣言するため、つまり、自分が他の誰でもない私であるということをわかりやすく発信し、退路を断つ必要があると思ったからです。

しかし何よりも、今後絵描きとして表現を突き詰めていく上で、自分がどういう人間であるか、というのは隠すことのできない根幹であると今更ながら強く感じ、決行に至りました。*1

 

note.com

 

戸惑っている方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとって「絵描き」であることが大前提であり「作品」こそが最重要なものであることに変わりはありません。その他の要素は副次的な、しかし切り離せない現実というだけです。
生まれ直した青柳カヲル第二章として今まで以上に泥臭く足掻いて、精進していく所存ですのでこれからもどうかお付き合いいただけたら嬉しいです。

 

“生まれ直した青柳カヲル第二章”
noteを読み終わった僕は机の引き出しから個展 “Living iDoll”で配られたリーフレットを取り出し、リストを眺めました。
この個展の一番最初の部屋で観客の目にまっさきに飛び込んできたのは、ピンク色の棺桶でした。

 

 

その棺桶のタイトルは “Reborn BED”で、その上には “Rinne shade”があります*2。生まれ直すこと。死と生を何度も繰り返すこと。それは恐らく青柳カヲルの作品を貫くテーマの一つです。

 

f:id:n1wator1:20210223114655j:plain

"Living iDoll"個展で配布されたリーフレットより、個展案内図(筆者撮影)

 

 

“Living iDoll”の“架空の絵描き”は画家でもなくアーティストでもなく、“絵描き”と名乗りました。“絵描き”という名乗りが意味するのは、ゆいみちゃんの絵を描かずにはいられない、その衝動と行為こそが、彼(女)を定義し、この世への存在を意味付けるということなのだと僕は解釈します。そうであるならば、ゆいみちゃんとの出会いは彼(女)に、“絵描き”以前の人生の終わりをもたらしたのです。彼(女)はゆいみちゃんに出会い、その絵を描くことによってこの世に'Reborn'したではないでしょうか。

絵を描くことが “架空の絵描き”が生まれ、生きることを意味していたのであれば、僕があの会場で見た絵のすべては彼(女)の生そのものでした。彼の生はゆいみちゃんの絵を生み続け、ゆいみちゃんの身体は、キャンバスの上に描かれれば描かれるほど “YouInMe”という偶像の精度を高めて行きました。ゆいみちゃんというアイドル(偶像)が観客に見せるステージを、彼女自身の肉体として描いたかのような “THE LAST LIVE”が僕に見せたのは、肉体という虚像でした。


しかし、それから1年半を経て、“Living iDoll”の奥にあった “THE LAST LIVE”が肉を剥き出した “Living iDoll”に置き換わり、青山羊がその仮面を剥いだのだとしたら。
それは「肉体という虚像」という言葉が指し示すような、肉体と虚像の間にある「=」の切断を意味していたのではないでしょうか。

 

“今後絵描きとして表現を突き詰めていく上で、自分がどういう人間であるか、というのは隠すことのできない根幹であると今更ながら強く感じ、決行に至りました”

“その他の要素は副次的な、しかし切り離せない現実というだけです”

 

“Living iDoll”で僕が見たのは、描けば描くほど、すなわち絵描きが生きれば生きるほど偶像になってしまう “You”でした。しかし、この「顔出し」が僕に見せたのは、描いても描いてもそこに残存し続ける青柳カヲルという“I”の顔であり、身体でした。僕が青柳カヲルの顔出しによって目撃したのは “架空の絵描き”の死と、“青柳カヲル”という身体と名前を持った絵描きの'Reborn'だったのかもしれません。

*1:青柳カヲルnote, "なぜ顔出しをしたのか," https://note.com/kaoruaoyagi/n/neebc38da5741

*2: ブログ公開当初は"Rinne shade"をベッドの上のメリーだと解釈してたんですが、ブログを読んだ方から、「メリーではなく、ベッドの上のあかりのシェード(ランプカバー)を指すのではないか」とご指摘いただきました。確かにそう捉える方が自然だと思って内容を修正しました。間違った情報は絶対書きたくなかったんですが、思い込みで完全に勘違いしていました。申し訳ありません。ご指摘ありがとうございました。(2021年3月16日)